部活動の保護者会は本当に必要か?──役割・課題・これからの形を考える
「保護者会って、本当にいるの?」 「役員をやるたびに疲弊して、なんのためにやっているのか分からなくなる」
部活動やスポーツ少年団に子どもを通わせる保護者の間で、こうした声を耳にする機会が増えています。
笹川スポーツ財団の「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」(2021年)によると、子どものスポーツ活動に関わる母親の66.7%が送迎に負担を感じていると回答しており、保護者の活動への関与が大きなストレス要因になっている実態が浮かびます。
保護者会は本当に必要なのか。もし必要だとしたら、どのような形が望ましいのか。この記事では、保護者会の機能を一つひとつ検証しながら、「必要な部分」と「変えるべき部分」を整理していきます。
保護者会が果たしている機能
まず、保護者会が現在どのような役割を担っているのかを整理しましょう。「不要だ」と結論を急ぐ前に、実態を正確に把握することが大切です。
1. 安全管理と監督責任の補助
部活動中の事故やケガへの対応は、本来は学校や指導者の責任です。しかし現実には、試合会場への引率や練習時の見守りなど、保護者が安全管理の一端を担っているケースは少なくありません。
独立行政法人日本スポーツ振興センターの「学校の管理下の災害」(令和4年度)によると、中学校の部活動中に発生した負傷・疾病の件数は年間約22万件にのぼります。これだけの件数が発生する環境において、指導者だけでは目が行き届かない場面があることは事実です。
保護者会がこの安全管理を組織的に支えている側面は、否定できません。
2. 送迎・移動の確保
特に少年団や地域クラブでは、練習場所や試合会場への送迎が保護者に大きく依存しています。
公共交通機関が充実していない地域では、保護者の車出しがなければ活動自体が成り立たないケースもあります。笹川スポーツ財団の調査では、母親の 89.2% が送迎に関与しているという結果が出ています。
保護者会が送迎の当番表を作成・調整していることで、特定の家庭に負担が集中することを防いでいるという機能はあります。
3. 費用の管理
部活動にはさまざまな費用がかかります。ユニフォーム代、遠征費、大会参加費、備品購入費など、保護者会がこれらの費用を集金・管理している場合が多いです。
文部科学省の「子供の学習費調査」(令和3年度)によると、中学校の学校外活動費のうちスポーツ・レクリエーション活動にかかる費用は、公立中学校で年間平均約31,000円です。この費用の徴収と透明な管理は、誰かが担わなければなりません。
4. 情報共有と連絡調整
練習日程の変更、大会の持ち物リスト、欠席連絡の取りまとめなど、日常的な情報共有の窓口として保護者会が機能しているケースも多いです。
特にLINEグループを活用した連絡網は、多くの保護者会で定着しています。
5. 保護者同士のコミュニティ
保護者会は、子どもの活動を通じた保護者同士の交流の場でもあります。同じ経験を共有する保護者同士のネットワークは、子育ての悩みを相談したり、情報を交換したりする貴重な機会となることがあります。
内閣府の「令和4年版 少子化社会対策白書」でも、子育て世代の孤立化が課題として指摘されており、保護者同士のつながりの場としての機能は一定の価値があります。
もし保護者会がなくなったら
では、保護者会がなくなった場合、何が起こるのでしょうか。
送迎が成り立たなくなる可能性
保護者会が組織的に送迎を調整しなくなると、各家庭が個別に対応する必要が出てきます。結果として、送迎ができる家庭の子どもだけが活動に参加でき、参加の格差が広がるリスクがあります。
スポーツ庁の「令和4年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査」でも、家庭の経済状況や保護者の関与度が子どものスポーツ参加率に影響を与えていることが示されています。
費用管理が不透明になる
保護者会の会計係がいなくなると、費用の徴収や管理を顧問の先生が担うことになりかねません。しかし、文部科学省の「教員勤務実態調査」(令和4年度)によると、中学校教員の平均在校等時間は平日で11時間01分に達しており、さらなる業務の追加は現実的ではありません。
顧問への負担集中
保護者会が担っていた業務の多くは、保護者会がなくなれば顧問の教員に回ってくる可能性が高いです。大会の申し込み事務、保護者への連絡、費用管理などは、誰かがやらなければなりません。
これは、部活動の地域移行が推進されている背景──教員の負担軽減──と矛盾する方向です。
すべてがなくなるわけではない
ただし重要なのは、保護者会がなくなっても保護者の関与そのものがなくなるわけではないという点です。
保護者会という「組織」がなくても、必要な場面で必要な協力をすることは可能です。問題は「組織を維持すること自体が目的化している」場合であり、柔軟な形に移行する選択肢があることを知っておく必要があります。
保護者会なしで運営しているケース
実際に、保護者会を持たずに部活動やクラブ活動を運営している事例は存在します。
事例1:地域クラブへの移行で保護者会を解消
スポーツ庁の「地域における新たなスポーツ環境の構築に向けた実証事業」(令和4〜5年度)では、全国各地で部活動の地域移行モデルが試行されました。地域クラブとして法人化し、専任のスタッフが運営を担う形態に移行した地域では、従来の保護者会が不要になったケースがあります。
たとえば、運営団体がクラブ運営費をスポンサー収入や自治体の補助金で賄い、送迎も巡回バスを導入することで、保護者の負担を大幅に軽減した事例が報告されています。
事例2:最小限の連絡体制のみで運営
一部の中学校部活動では、保護者会を設けず、顧問と保護者が直接やり取りする形で運営されています。連絡アプリや学校の一斉メールシステムを活用し、必要な情報だけを効率的に共有するスタイルです。
この場合、送迎は各家庭の個別対応、費用は学校の集金システムを通じて徴収する形になります。部活動の規模が小さい場合や、活動場所が学校の敷地内に限られる場合には、この形で十分に機能しています。
事例3:「保護者サポーター制度」への転換
保護者会という恒常的な組織ではなく、行事ごとに有志がサポーターとして参加する制度を導入したケースもあります。大会があるときだけ送迎ボランティアを募り、参加できる人が参加する形です。
この方式のメリットは、「やりたい人がやりたいときに関わる」ことで、強制感がなくなり保護者の満足度が上がる点にあります。
「必要な機能」と「不要な慣習」を分ける
本当に必要な機能
保護者会の機能を検証すると、本当に不可欠な機能は意外と限られていることが分かります。
- 安全に関する緊急連絡体制:事故・ケガ時に保護者に確実に連絡が届く仕組み
- 費用の透明な管理:会費の集金と使途の明確化
- 最低限の送迎調整:公共交通機関で対応できない場合の送迎
これらは保護者会という「組織」がなくても、デジタルツールや学校の仕組みを活用すれば実現可能です。
見直すべき慣習
一方で、以下のような活動は「本当に必要か」を問い直す余地があります。
- お茶当番:大人のお茶出しを子どもの活動のために保護者が負担する合理性があるか
- 保護者同士の懇親会:強制参加の飲み会や食事会は本当に必要か
- 過度な応援の組織化:大会の応援に統一グッズや旗を作成する必要があるか
- 年度ごとの役員選出の儀式:何時間もかけた役員決めの会議は効率的か
笹川スポーツ財団の調査でも、保護者の負担感が高い項目と子どもの活動に直接必要な項目は、必ずしも一致していません。「子どものため」と言いながら、実際には大人の慣習を維持するための活動になっていないか、冷静に見直す必要があります。
保護者会を「現代型」にアップデートするには
ステップ1:機能を棚卸しする
まず、現在の保護者会が行っている活動をすべてリストアップします。そのうえで、以下の3つに分類します。
- A. 子どもの活動に直接必要なもの(送迎、安全管理、費用管理)
- B. あると便利だが必須ではないもの(情報共有、交流イベント)
- C. 慣習として続いているだけのもの(お茶当番、過度な役員業務)
Cに分類されるものは、原則として廃止を検討すべきです。
ステップ2:デジタルツールを活用する
情報共有や出欠管理、費用管理など、デジタルツールで効率化できる業務は積極的にオンライン化しましょう。
- 連絡:専用の連絡アプリや学校配信システム
- 出欠管理:Googleフォームなどのオンラインツール
- 会計:クラウド会計ソフトやスプレッドシートでの共有管理
- 書類管理:クラウドストレージでの引き継ぎ資料管理
総務省の「令和5年版 情報通信白書」によると、日本のスマートフォン保有率は90.1%(令和4年)に達しています。デジタルツールの活用に対するハードルは、年々低くなっています。
ステップ3:「任意参加」を徹底する
保護者会への参加、役員の引き受け、当番への参加は、すべて任意であることを明文化します。
「全員参加」を前提とした運営から、「参加できる人が参加する」運営に切り替えることで、保護者の負担感は大幅に軽減されます。
もちろん、一部の保護者に負担が集中するリスクはあります。しかし、強制による不満と不公平感を抱えたまま活動を続けるよりも、自発的に関わりたいと思える環境を作るほうが、長期的には健全な運営につながります。
ステップ4:地域移行の流れに乗る
スポーツ庁の「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(令和4年)では、地域クラブへの移行が推進されています。地域クラブとして法人化し、専門のスタッフが運営を担う体制ができれば、保護者会の多くの機能はプロの運営者に引き継ぐことが可能です。
この流れは2026年度以降さらに加速していくと見られており、保護者会のあり方を根本から見直す好機でもあります。
保護者会に対する「バランスのとれた見方」
完全廃止が正解とは限らない
保護者会の負担が大きいことは事実ですが、完全に廃止すれば問題がすべて解決するわけではありません。
保護者同士の顔が見える関係がなくなることで、子ども同士のトラブル発生時に保護者間の連携がとりにくくなったり、情報格差が生まれたりするリスクもあります。
大切なのは「あるか、ないか」の二択ではなく、「どのような形であるべきか」を考えることです。
保護者の多様性を前提にする
共働き家庭、ひとり親家庭、介護を抱える家庭、外国にルーツを持つ家庭──保護者の事情は多様です。
厚生労働省の「令和4年 国民生活基礎調査」によると、児童のいる世帯の 75.6% が共働き世帯です。「平日の昼間に集まれる」「毎週末に時間が取れる」という前提で運営される保護者会は、もはや時代に合っていません。
多様な家庭環境を前提に、参加のハードルを下げる工夫が求められています。
まとめ
「保護者会は本当に必要か?」という問いに対する答えは、「すべてが必要なわけではないが、一部の機能は不可欠」です。
重要なポイントを整理します。
- 安全管理・費用管理・最低限の連絡体制は何らかの形で必要
- お茶当番・懇親会・過度な役員業務など慣習的な活動は見直しの余地がある
- デジタルツールの活用と任意参加の徹底で、負担は大幅に軽減できる
- 部活動の地域移行が進めば、保護者会の役割は根本的に変わる可能性がある
- 完全廃止か現状維持かの二択ではなく、現代に合った形への進化を目指すべき
保護者会は本来、子どもたちの活動を支えるための仕組みです。その原点に立ち返り、「誰のために、何のために」を常に問い直しながら、一人ひとりの保護者にとって無理のない関わり方を模索していくことが大切ではないでしょうか。
参考文献
- 笹川スポーツ財団「子ども・青少年のスポーツライフ・データ2021」
- スポーツ庁・文化庁「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」(令和4年12月)
- スポーツ庁「令和4年度 全国体力・運動能力、運動習慣等調査」
- スポーツ庁「地域における新たなスポーツ環境の構築に向けた実証事業」報告(令和4〜5年度)
- 文部科学省「子供の学習費調査」(令和3年度)
- 文部科学省「教員勤務実態調査」(令和4年度)
- 独立行政法人日本スポーツ振興センター「学校の管理下の災害」(令和4年度)
- 内閣府「令和4年版 少子化社会対策白書」
- 厚生労働省「令和4年 国民生活基礎調査」
- 総務省「令和5年版 情報通信白書」