地域移行で保護者はどう変わる?──部活動改革が家庭に与える影響と準備すべきこと
「部活動が地域に移るらしいけど、親の負担は増えるの? 減るの?」
2026年度から本格的な「改革実行期間」に入った部活動の地域移行(地域展開)。ニュースや学校からのお知らせで耳にする機会が増えたものの、保護者にとって具体的に何がどう変わるのかがわかりにくい、という声は少なくありません。
この記事では、スポーツ庁のガイドラインや最新の調査データをもとに、地域移行が保護者に与える影響を整理し、今から準備しておくべきことを解説します。
そもそも「地域移行」とは何か
制度の概要
部活動の地域移行(地域展開) とは、これまで学校の教員が担ってきた部活動の運営・指導を、地域のスポーツクラブや団体、外部指導者に段階的に移行する取り組みです。
スポーツ庁・文化庁が令和4年12月に策定した「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン」を起点に、全国の自治体で改革が進められています。2025年5月には「地域移行」から「地域展開」へと呼称が変更され、単に学校から地域に「移す」のではなく、地域全体でスポーツ・文化芸術活動の環境を広げるという方向性が明確にされました。
なぜ地域移行が必要なのか
地域移行の背景には、主に3つの課題があります。
1. 教員の過重労働
文部科学省の「教員勤務実態調査」(令和4年度)によると、中学校教員の平均在校等時間は1日あたり約11時間24分に達しています。部活動の指導は、教員の長時間労働の主要因の一つです。ガイドラインでは「教師の献身的な勤務の上に成り立つ」現状からの脱却が求められています。
2. 少子化による部員不足
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の中学生人口は2035年にかけて現在から約20%減少する見通しです。すでに単独校ではチームを組めない部活動が増えており、学校の枠を超えた活動の場が必要とされています。
3. 専門的指導の不足
スポーツ庁の令和3年度調査では、中学校の運動部顧問のうち約45%が担当競技の経験がないと回答しています。地域の専門人材が指導を担うことで、より質の高い指導環境を実現できます。
改革のスケジュール
現在の改革スケジュールは以下の通りです。
| 期間 | 内容 |
|---|---|
| 2023〜2025年度 | 改革推進期間:計画策定・体制づくり |
| 2025年12月 | 新ガイドライン公表 |
| 2026〜2028年度 | 改革実行期間(前期):休日の地域展開に確実に着手 |
| 2029〜2031年度 | 改革実行期間(後期):さらなる推進と平日の改革 |
スポーツ庁のフォローアップ調査(令和6年)によると、2025年度末までに54%の部活動で休日の地域連携・地域移行が予定されています。
保護者にとって「何が変わるのか」
変化1:活動の「運営主体」が変わる
最も根本的な変化は、子どもが所属する活動の運営主体が学校から地域団体に移ることです。
これまで:
- 顧問の先生が活動全体を管理
- 連絡は学校を通じて行われる
- 問題があれば学校に相談
これから:
- 地域クラブの運営者・指導者が管理
- 連絡はクラブから直接届く
- 問題はクラブの運営者に相談
保護者が「学校に任せておけばいい」と考えていた部分が、地域クラブとの直接的な関係に変わります。クラブの選び方、指導者の質の見極め、活動方針への理解など、保護者がより主体的に関わる必要が出てきます。
変化2:費用が発生する
学校の部活動は原則として指導料がかからず、費用は用具代や大会参加費程度でした。しかし、地域クラブでは月会費が必要になるケースが一般的です。
スポーツ庁の実証事業調査によると、地域クラブの月会費の分布は以下の通りです。
| 月会費 | 割合 |
|---|---|
| 1,000円未満 | 約1/3 |
| 1,000〜2,000円未満 | 約1/3(最多) |
| 3,000円以下 | 約85% |
多くのクラブが月額3,000円以下に収まっていますが、これまでゼロに近かった費用が新たに発生することに変わりはありません。
新ガイドライン(令和7年12月公表)では、「家庭の経済状況に関わらず希望する生徒が幅広く参加できるよう留意」することが求められており、経済的に困窮する世帯への支援措置の充実が自治体に求められています。実際に、就学援助制度の対象に地域クラブの活動費を含める自治体も出始めています。
変化3:ボランティア的役割の変化
部活動における保護者のボランティア(当番、送迎、行事の手伝いなど)は、地域移行によって変化する可能性が高い領域です。
軽減が期待される部分:
- 組織運営の業務:会計、連絡係、スケジュール管理などは、クラブの運営スタッフが担う
- 指導補助:練習時の見守りや安全管理は、指導者が責任を持つ
- イベント企画:大会への引率や行事の企画は、クラブ主導で行われる
引き続き必要になりうる部分:
- 送迎:活動場所によっては保護者の送迎が必要な場合がある
- 応援・観戦:試合や発表会への参加
- 家庭でのサポート:食事、体調管理、精神面のケア
笹川スポーツ財団の調査(2024年)では、地域クラブ活動への移行後も保護者の60%以上が何らかの関与を継続していることが示されています。「完全にお任せ」というよりは、関わり方の質が変わると考えるのが現実的です。
変化4:指導者との関係が変わる
学校の部活動では、顧問の先生との関係は「学校の先生と保護者」という枠組みの中にありました。地域クラブでは、指導者との関係がより対等になります。
- 指導方針に対して意見を伝えやすくなる
- 指導者を選ぶことができる(合わなければクラブを変えることも可能)
- 一方で、指導者の質にばらつきがあることへの注意も必要
新ガイドラインでは、地域クラブの認定制度の創設が盛り込まれており、安全基準・指導者資格・暴力防止方針などを満たしたクラブを自治体が認定する仕組みが整備されつつあります。また、日本版DBS(無犯罪証明制度)の活用も検討されており、子どもの安全確保に向けた制度的な裏付けが進んでいます。
保護者が感じている不安
地域移行に対する保護者の不安は、スポーツ庁の調査や各自治体のアンケートから浮かび上がっています。
不安1:「費用が高くなるのでは」
前述の通り、多くのクラブは月額3,000円以下ですが、複数の子どもがいる家庭や、複数の活動に参加する場合は負担が大きくなります。
自治体による支援制度(減免、助成金、就学援助の拡大)の活用が重要です。戸田市(埼玉県)ではふるさと納税を活用したクラウドファンディング、長与町(長崎県)では企業版ふるさと納税による財源確保など、各地で独自の取り組みが始まっています。
不安2:「指導の質が心配」
学校の先生であれば「教育者」としての信頼がありますが、地域の指導者は背景がさまざまです。
スポーツ庁のフォローアップ調査(令和6年)では、自治体の71.9%が「指導者の確保」を課題として挙げています。一方で、実証事業に参加した自治体からは「地域の専門人材が関わることで、むしろ指導の質が向上した」という報告も出ています。
保護者としては、クラブを選ぶ際に以下の点を確認するとよいでしょう。
- 指導者の資格・経験
- 安全管理体制(保険加入、緊急時対応マニュアル)
- 指導方針の明文化と公開
- 暴力・ハラスメント防止への取り組み
不安3:「学校との連携は大丈夫か」
地域クラブの活動と学校生活のバランスが取れるかどうかも、保護者の関心事です。
新ガイドラインでは、学校と地域クラブの情報共有体制の構築が求められています。具体的には、大会参加に必要な学校長の推薦や、生徒の健康状態の共有などが挙げられています。
中学校体育連盟(中体連)の大会参加資格についても段階的に見直しが進められており、地域クラブ所属の生徒が中体連の大会に出場できる体制が整備されつつあります。
不安4:「送迎がさらに大変になるのでは」
活動場所が学校から地域の施設に移ることで、通いやすさが変わる可能性があります。
学校内で活動していた場合に比べ、地域のスポーツ施設や体育館に移ることで、通学路とは異なるルートでの移動が必要になるケースがあります。
この課題に対しては、自治体によってはスクールバスの運行や公共交通機関の補助を検討しているところもあります。柏市(千葉県)のように、活動情報を一元化したプラットフォームを構築し、送迎の調整を効率化する事例も出てきています。
地域移行のメリットを最大化するために
メリット1:専門的な指導環境
地域移行の最大のメリットは、その競技・活動の専門家から指導を受けられる可能性が高まることです。
元スポーツ庁長官の室伏広治氏は「子供たちが部活動を数年やって燃え尽きて引退するのではなく、生涯を通してスポーツに親しむ環境を作り、メンタリティも育まなければいけない」と述べています。専門的な指導者のもとで適切な練習量とメニューが組まれることで、ケガの予防やバーンアウトの防止にもつながります。
メリット2:活動の選択肢の拡大
学校の部活動では、設置されている部活動の中からしか選べませんでした。地域クラブでは、学校にはなかった種目や活動に参加できる可能性が広がります。
渋谷区の「渋谷ユナイテッド」では、ダンス、フェンシング、eスポーツ、将棋、料理・スイーツなど11クラブを運営しており、従来の部活動では考えられなかった選択肢を提供しています。
メリット3:学校の枠を超えた交流
地域クラブでは、異なる学校の生徒が一緒に活動することになります。新しい友人関係の形成や、多様な価値観との出会いは、子どもの社会性を育む貴重な機会です。
メリット4:保護者の運営負担の軽減
組織的に運営されるクラブであれば、保護者が「なんでも屋」として活動を支える必要は薄れます。スケジュール管理、会費徴収、連絡業務などがクラブの運営体制の中で処理されるため、保護者は子どもの応援と家庭でのサポートに集中できる環境が整いやすくなります。
保護者が今から準備すべきこと
1. 自治体の動向を把握する
地域移行の進み方は自治体によって大きく異なります。お住まいの自治体がどの段階にいるのかを確認しましょう。
- 教育委員会やスポーツ振興課のウェブサイトをチェック
- 学校から配布される地域移行に関するお知らせに目を通す
- 自治体の説明会やアンケートに積極的に参加する
2. 地域のクラブ情報を集める
すでに活動している地域のスポーツクラブや文化活動団体について、情報を集めておくと安心です。
- 活動内容、指導者、費用、活動場所
- 口コミや体験者の声
- 体験入会の機会
3. 子どもと「やりたいこと」を話し合う
地域移行は、子どもにとって新しい活動を選び直すチャンスでもあります。「学校にある部活だから入った」のではなく、本当にやりたいことを一緒に考えてみましょう。
4. 費用について家庭内で話し合う
新たに発生する費用について、家計の中でどう位置づけるかを考えておきましょう。支援制度の有無も事前に確認しておくことをおすすめします。
5. 変化を前向きに捉える
地域移行は「今までのやり方がなくなる」ことへの不安を伴いますが、同時により良い環境が整う可能性も秘めています。完璧な制度がいきなり完成するわけではありませんが、保護者の声がフィードバックされることで、制度は改善されていきます。
まとめ
部活動の地域移行(地域展開)は、保護者の関わり方に大きな変化をもたらします。
保護者にとっての主な変化:
- 運営主体が学校から地域クラブに移り、クラブとの直接的な関係が生まれる
- 月会費が新たに発生するが、多くは月額3,000円以下
- ボランティア的な運営負担は軽減される可能性がある一方、送迎などは引き続き必要
- 指導者との関係がより対等になり、選択の自由も広がる
保護者が今から準備すべきこと:
- 自治体の動向を把握し、説明会やアンケートに参加する
- 地域のクラブ情報を集め、子どもと「やりたいこと」を話し合う
- 費用について家庭内で検討し、支援制度を確認する
- 変化を前向きに捉え、声を上げていく姿勢を持つ
地域移行は始まったばかりの改革です。保護者の声がこの制度をより良いものにしていく力になります。不安なことは遠慮なく自治体や学校に問い合わせ、子どもたちにとって最善の環境を一緒につくっていきましょう。
参考資料:
- 学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する総合的なガイドライン(令和4年12月)|スポーツ庁
- 部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン(令和7年12月)|スポーツ庁
- 地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議 最終とりまとめ|スポーツ庁
- 部活動改革の"現状"と"展望"|スポーツ庁 Web広報マガジン
- 地域スポーツクラブ活動についての実態調査(令和6年度)|スポーツ庁
- 教員勤務実態調査(令和4年度)|文部科学省
- 保護者視点で考える運動部活動の活動実態と地域連携・地域クラブ活動への移行(2024年12月)|笹川スポーツ財団
- 渋谷ユナイテッド|渋谷区
- 日本の将来推計人口(令和5年推計)|国立社会保障・人口問題研究所