運動部に入っている子と、いない子──2026年10月公表の体力調査が示した「差の拡大」と、地域展開期に受け皿が担うもの
「うちの子、部活に入らないって言っているんですけど、大丈夫でしょうか」
入部の時期や、退部の相談を受けたときに出てくる問いです。答えにくい質問でもあります。部活動に入らない選択は尊重されるべきものですし、運動の機会は部活動だけではありません。
ただ、2026年10月11日にスポーツ庁が公表した 令和7年度体力・運動能力調査 は、この問いに対して無視しにくい数字を出してきました。運動部や地域スポーツクラブに所属している子としていない子の体力の差が、 長期的に拡大している というものです。
この調査は昭和39年から毎年実施されている国民全体の体力調査で、今回は平成13年度から令和7年度までの25年分のデータを使い、所属状況や運動実施状況と体力の関係を分析しています。部活動の地域展開が本格化し、「どこに所属するか」の仕組みが変わりつつある今、押さえておきたい内容です。
調査が示した数字:中1で男子6.6点、女子9.1点の差
調査では、12歳(中1)・15歳(高1)・19歳について、 「運動部や地域スポーツクラブ」への所属状況別 に体力合計点を比較しています。
体力合計点とは、新体力テストの各種目(握力、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20mシャトルランまたは持久走、50m走、立ち幅とび、ハンドボール投げ)の記録を1〜10点に換算して足し合わせた点数です。12〜19歳は8種目で80点満点。種目ごとの記録の単位がバラバラなので、合計点にそろえることで年代や集団どうしを比べやすくしています。
令和7年度の結果は次のとおりです。
| 年代 | 所属あり-なしの体力合計点の差 | 差の長期的な変化 |
|---|---|---|
| 12歳(中1) | 男子 +6.6点 / 女子 +9.1点 | 男子はやや拡大、女子は拡大 |
| 15歳(高1) | 男子 +9.1点 / 女子 +9.1点 | 男女とも拡大 |
| 19歳 | 男子 +8.5点 / 女子 +7.7点 | 男子は拡大、女子は大きな差を維持 |
注目したいのは、差そのものよりも 差が広がっている という点です。すべての年代・男女で所属者の体力合計点が非所属者を上回っていますが、12歳・15歳・19歳の多くで、その差が25年のあいだに拡大する方向に動いています。
運動の頻度で見ても同じ傾向が出ています。週1日以上運動・スポーツを実施している人と週1日未満の人で、新体力テストの総合評価C以上の割合を比べると、12歳で男子31.0ポイント、女子24.3ポイントの差がありました。15歳では男子34.8ポイント、女子25.1ポイントです。こちらも「変動しつつも大きな差を維持」と評価されています。
青少年全体の体力は、この10年は下向き
もう一つ押さえておきたいのが、青少年全体の傾向です。
新体力テストが始まった平成10年頃と令和7年度を比べると、合計点は男女ともどの年代でも令和7年度のほうが高くなっています。長いスパンで見れば向上しているわけです。
ところが 最近10年間に限ると、合計点は男女ともに過半数の年代で低下傾向 を示しています。項目別では、握力、上体起こし、20mシャトルラン、持久走、ボール投げが男女ともに過半数の年代で低下しています。
つまり、全体が緩やかに下がりながら、所属の有無による差は開いている。この2つが同時に起きているのが現在地です。
所属率そのものも、少しずつ下がっている
差が開くだけなら「所属している子が伸びている」という読み方もできます。しかし調査は、所属率の推移についても触れています。
12歳の所属率は 高い水準にあるものの、男女ともやや低下 。15歳は男女ともおおむね横ばい。19歳では経年的にやや低下、という整理です。
そして年代が上がると所属率は大きく下がります。19歳で所属率は大きく低下し、25〜29歳や35〜39歳では低い水準になる。特に女性でその傾向が顕著だと報告されています。スポーツ庁はこの結果を受けて、第4期スポーツ基本計画に向けた取組として、学校体育館など地域の体育施設の利活用拡大や、女性向けの集団プログラムの充実を挙げています。
中学・高校の部活動や地域クラブは、こうして年代とともに下がっていく所属率の いちばん手前、まだ所属率が高い時期 にあたります。ここでの所属が途切れるかどうかは、その後の20年、30年の運動習慣にも関わってきます。
受け皿が組み替わる時期に、差の拡大をどう受け止めるか
ここで部活動の地域展開と重ねてみます。
2026年度から改革実行期間が始まり、休日の部活動は原則として地域展開へ、平日も段階的に進むことが国の方針として示されています。スポーツ庁・文化庁の調査では、2027年度までに休日の活動の地域展開を予定している市区町村は76.6%に上ります。
この移行期に起きるのは、 「所属の受け皿」が一度組み替わる ということです。学校の部活動という、入部届を出せば誰でも入れた枠組みから、会費や送迎や登録手続きを伴う地域クラブへ。その切り替えのタイミングで、所属が途切れる子が出る可能性はあります。
調査が示しているのは「所属していると体力が高い」という相関であって、因果関係を断定するものではありません。もともと運動が得意な子が所属している、という方向の説明も成り立ちます。それでも、所属の有無で分かれたグループの差が25年かけて開いてきたという事実は、受け皿をどう設計するかを考える材料になります。
運営・指導の側で考えられること
- 入口のハードルを下げる:見学や体験の受け入れ、途中入部の可否、短期の参加枠など、「まず入ってみる」経路が残っているかを確認する
- 費用と送迎の情報を先に出す:年間の会費、大会参加費、送迎の有無。金額や手間が分からないことは、それ自体が入会をためらう理由になります
- やめる理由を把握する:退部・退会の際に理由が記録されていれば、ハードルがどこにあるかが見えます
- 運動量の少ない子を想定した設計:強度の高い練習だけで組むと、週1日の参加を望む子の居場所がなくなります
家庭の側で考えられること
- 部活動や地域クラブだけが運動の機会ではありません。地域のスポーツ教室、自治体の施設開放、習い事など、所属の形は複数あります
- 移行の説明会では、活動日数・費用・送迎・入会時期の4点を確認しておくと、続けられるかどうかの判断材料になります
- 「週1日でも継続する」ことの意味は、今回の調査の数字からも読み取れます。フル参加でなくても所属を切らさない選択肢があるかを、クラブ側に聞いてみる価値はあります
まとめ
令和7年度体力・運動能力調査が示したのは、次の3点です。
- 運動部や地域スポーツクラブに所属する子としない子の体力差は、12歳で男子6.6点・女子9.1点、15歳で男女とも9.1点あり、長期的に拡大している
- 青少年全体の体力合計点は、最近10年間では男女ともに過半数の年代で低下傾向にある
- 12歳の所属率は高い水準にあるが、男女ともやや低下している
部活動の地域展開は、教員の負担軽減と持続可能な活動環境の確保という目的で進んでいます。その目的自体は、この調査の結果と矛盾しません。むしろ、所属の受け皿が組み替わるこの数年に、入口を狭めずに移行できるかどうかが、数字の先にある現場の課題だと言えます。
運営する側にとっては、入りやすさと続けやすさを設計し直す機会でもあります。会費の見通し、活動日の共有、参加の可否の確認といった事務の手間が入会のハードルになっているなら、そこを軽くすることも受け皿づくりの一部です。