保護者当番はなぜなくならないのか──部活動・少年団の「暗黙のルール」を考える
「また週末、当番だ…」 「仕事を休んでまで車出しをしないといけないの?」
部活動や少年団に子どもを通わせる保護者の多くが、一度はこうした思いを抱いたことがあるのではないでしょうか。
笹川スポーツ財団の2021年調査では、子どものスポーツ活動に関わる母親の66.7%が送迎に負担を感じていると回答しています。さらに、当番制度や保護者の負担の大きさが、子どものスポーツ活動への参加そのものを妨げる障壁になっているとも指摘されています。
なぜ、これほど多くの保護者が負担を感じているにもかかわらず、当番制はなくならないのでしょうか。この記事では、保護者当番が存続し続ける構造的な理由と、負担を減らすための具体的なアプローチを考えていきます。
保護者当番とは何か
当番制の主な内容
部活動や少年団における「保護者当番」とは、活動の運営を支えるために保護者が交代で担う役割のことです。具体的には以下のようなものがあります。
- 送迎・車出し:練習や試合会場への子どもたちの送迎
- 試合時の付き添い:大会や遠征への帯同、見守り
- 飲み物・食事の準備:練習や試合時の差し入れ、お茶当番
- 練習の見守り・安全管理:練習中の事故やケガへの対応
- 会場の準備・片付け:練習場所の設営や清掃
- 連絡係・事務作業:出欠管理、会費徴収、スケジュール調整
どれくらいの保護者が関わっているのか
笹川スポーツ財団の調査(2021年)によると、子どものスポーツ活動に対する母親の関与率は非常に高い水準にあります。
| 活動内容 | 母親の関与率 | 父親の関与率 |
|---|---|---|
| 子どもの送迎 | 89.2% | 56.4% |
| ユニフォームの洗濯 | 84.4% | 21.2% |
| 食事・飲み物の用意 | 74.4% | 31.6% |
| 試合・練習の観戦 | 70.0% | 55.2% |
母親と父親の関与率には大きな格差があり、特にユニフォームの洗濯では63.3ポイントもの差が生じています。当番制の負担は、実態として母親に偏っているのが現状です。
なぜ当番制はなくならないのか
保護者当番が続く理由は、単に「誰もやめようと言わないから」ではありません。いくつもの構造的な要因が絡み合っています。
1. 「前例踏襲」の文化
最も大きな要因の一つが、前例踏襲の圧力です。
「自分たちもやってきたから」「先輩保護者がやっていたから」──こうした理由で、当番制の見直しが行われないまま何年も続いているケースは珍しくありません。
PTA改革に詳しいジャーナリストの大塚玲子氏は、PTAの活動が見直されにくい背景として「前年踏襲の文化」を指摘しています。部活動の保護者会にも同じ構造があり、「やめていいのか分からない」「変えて問題が起きたら責任を取れない」という心理が、現状維持を選ばせています。
2. 「善意」と「同調圧力」の結びつき
当番制の多くは、もともと善意から始まった仕組みです。「子どもたちのために」「チームのために」という気持ちが出発点にあるため、それに対して「やりたくない」と言いにくい空気が生まれます。
内閣府の「社会意識に関する世論調査」(令和6年)では、日本人の約半数が「社会のために役立ちたい」と回答しています。こうした利他的な意識が強いほど、「自分だけやらない」ことへの罪悪感が大きくなり、結果として同調圧力として機能してしまうのです。
「みんなやっているのに、自分だけ断れない」──この心理が、当番制を維持する見えない力になっています。
3. 代替手段がない
当番制がなくならない現実的な理由として、代替手段が確立されていないことも大きな要因です。
特に、送迎(車出し) の問題は深刻です。練習場所や試合会場が公共交通機関ではアクセスしにくい場所にあることが多く、保護者の車なしでは活動が成り立たないケースが少なくありません。
スポーツ庁の「地域スポーツクラブ活動についての実態調査」(令和6年)でも、地域移行を進める上での課題として「移動手段の確保」が挙げられています。保護者のボランティアに依存する構造を変えるには、移動手段そのものの解決策が必要です。
4. 「任意」と「強制」の曖昧さ
法律上、PTAへの加入や保護者会の活動は任意です。全国PTA連絡協議会も、PTA活動は任意参加が原則としています。
しかし、現場では「参加して当然」という空気があり、任意であるはずの活動が事実上の強制になっているケースが後を絶ちません。
「入部=保護者会に参加」「保護者会に入ったら当番は必須」──こうした暗黙のルールが、保護者の選択肢を狭めています。
5. 「言い出す人」がいない
当番制に疑問を持つ保護者は少なくありません。しかし、実際に「見直しましょう」と声を上げる人はなかなか現れません。
その理由はいくつかあります。
- 子どもへの影響を心配する:「自分が波風を立てたせいで、子どもが不利益を被るのでは」という不安
- 少数派になる恐怖:他の保護者から浮いてしまうことへの懸念
- 在籍期間の短さ:子どもが卒業すれば関係が終わるため、「あと少し我慢すればいい」と考えてしまう
こうして、「おかしい」と思いながらも誰も声を上げず、仕組みだけが残り続けるという状況が生まれます。
6. 指導者・学校側の依存
顧問の先生やコーチの中には、保護者のサポートがあることを前提として活動を組み立てている方もいます。
スポーツ庁のガイドライン(令和4年)では、部活動の活動時間は「平日2時間程度、休日3時間程度」と定められていますが、遠征や大会を含めると、指導者だけでは対応しきれない場面も多くあります。結果として、保護者の協力なしには活動が回らない構造ができあがってしまっているのです。
当番制が引き起こす問題
保護者の生活への影響
当番制の負担は、保護者の仕事や生活に直接的な影響を与えます。
- 共働き家庭の増加:厚生労働省の調査では、共働き世帯は2023年時点で全体の約7割を占めています。平日の当番はもちろん、休日の拘束も大きな負担です
- シングル家庭への過度な負担:ひとり親世帯では、当番を担うことがさらに困難になります
- 仕事への支障:当番のために有給休暇を取得したり、シフトを調整したりする必要が生じます
子どもの活動参加への障壁
笹川スポーツ財団の調査では、保護者の負担の大きさが、子どものスポーツ活動への参加を妨げる要因になっていることが指摘されています。
「当番が大変そうだから、子どもにスポーツをさせたくない」──本来、子どものためにある仕組みが、かえって子どもの機会を奪ってしまうという本末転倒な事態が起きているのです。
保護者間の不公平感とトラブル
当番制は、保護者間の不公平感やトラブルの原因にもなります。
- 「あの人はいつも来ない」という不満
- 「仕事だから行けない」が通じない雰囲気
- 一部の保護者に負担が集中する偏り
- グループLINEでの暗黙の監視
こうした不満の蓄積が、保護者同士の人間関係を悪化させ、最悪の場合は子どもの活動にまで悪影響を及ぼすことがあります。
当番制を見直すための具体的なアプローチ
ステップ1:現状を「見える化」する
まず大切なのは、現在の当番制で何がどれだけの負担になっているかを客観的に把握することです。
- 当番の種類と頻度をリストアップする
- 各活動にかかる時間を記録する
- 本当に保護者でなければできないことを仕分ける
意外と多いのが、「昔からやっているから」という理由だけで続いている活動です。見える化することで、本当に必要なことと、やめても問題ないことが明確になります。
ステップ2:「全員同じ」から「できる人ができる範囲で」へ
全員が同じ回数・同じ内容の当番をこなすことは、現代の多様な家庭環境では現実的ではありません。
- 得意なことで貢献する方式:車を持っている人は送迎、事務が得意な人は会計、というように分担する
- ポイント制の導入:各活動にポイントを設定し、年間で一定ポイントを達成すればOKとする
- 「参加できない」を認める文化:仕事や家庭の事情で参加できないことを、批判せず受け入れる
ステップ3:外部リソースの活用を検討する
保護者のボランティアだけに頼らない仕組みを模索しましょう。
- 地域のシルバー人材センターや学生ボランティアの活用
- 有償ボランティアの導入:交通費や活動費を支給する形式
- 団体バスや公共交通機関の利用検討
スポーツ庁が進める「地域移行」の流れの中で、地域のスポーツクラブが運営を担うケースも増えてきています。こうした団体では、指導者の確保とともに運営体制の整備も進められており、保護者の負担軽減につながる可能性があります。
ステップ4:デジタルツールで負担を減らす
当番制そのものをなくせなくても、運営にかかる手間を減らすことは可能です。
- 出欠管理の自動化:紙やLINEでの個別連絡をやめ、専用ツールで一括管理する
- スケジュール共有:当番表をオンラインで共有し、交代の調整をスムーズにする
- 連絡手段の整理:連絡事項をグループLINEの雑談に埋もれさせず、確実に届ける仕組みをつくる
こうしたデジタル化だけでも、連絡や調整にかかる時間と心理的負担は大きく軽減されます。
「やめる」のではなく「変える」という発想
当番制を完全になくすことが正解とは限りません。保護者が関わることで、子どもの活動をより安全に、より充実したものにできる側面もあります。
大切なのは、「やって当然」から「できる範囲で協力する」へ、意識を変えていくことです。
- 当番は義務ではなく、任意の協力であると明確にする
- 参加できない人を批判しない文化をつくる
- 保護者の負担を前提としない活動設計を目指す
- 変化を「手抜き」ではなく「時代に合った合理化」と捉える
スポーツ庁のガイドラインでも、部活動の運営は「持続可能性」を重視すべきとされています。保護者に過度な負担を強いる仕組みは、長期的には活動そのものの存続を脅かします。
まとめ
保護者当番がなくならない理由は、前例踏襲、同調圧力、代替手段の不足、任意と強制の曖昧さなど、複数の構造的な要因が絡み合っているからです。
当番制が存続する主な理由:
- 「前からやっているから」という前例踏襲の文化
- 善意から始まった仕組みが同調圧力に変わっている
- 送迎など、代替手段が確立されていない
- 任意のはずの活動が事実上の強制になっている
- 声を上げにくい心理的障壁がある
見直しのためにできること:
- 現状の負担を「見える化」し、本当に必要な活動を見極める
- 「全員同じ」ではなく「できる人ができる範囲で」の仕組みに変える
- 外部リソースやデジタルツールの活用で負担を軽減する
- 保護者の負担を前提としない活動設計を検討する
一人の保護者がすべてを変えるのは難しくても、「今のやり方は本当にベストなのか?」と問いかけることが、変化の第一歩になります。子どもたちの活動を長く、無理なく支えていくために、保護者の関わり方も時代に合わせてアップデートしていきましょう。
参考資料: